中小業者へ重い負担、情報もれには厳罰も
来年1月から「マイナンバー」制度が実施されます。マイナンバーとは「社会保障・税」の共通の「個人番号」で今年の10月からは全国民に通知されることになっています。政府はマイナンバー制度の目的を「行政の効率化」「国民の利便性の向上」「公正・公平な社会の実現」としていますが、現実には管理を企業など事業者に押しつけ、情報もれなどについては厳しく当事者を罰することで対応しようとしています。とくに中小企業、零細企業にとっては従業員などの「個人番号」の取得と利用、その後の管理は非常に複雑でコストもかかります。毎日の仕事におわれる状況では専任者をおいたり、専用システムを運用する余裕はとうていありません。
対応は大幅に遅れ
いま明らかになっている制度導入以後のスケジュールは下記の表のとおりです。帝国データバンクの今年4月の調査ではマイナンバー制度への対応について「完了」としたのは0.4%と極めて少数で、「進めている」とした企業ですら2割弱でした。この調査は大企業もふくむ全国約2万社を対象にしたもので、中小企業、零細企業はほとんど対応できていない状況です。
2015年・平成27年 | 2016年・平成28年 | 2017年・平成29年 | 「個人番号」欄が記載される主な申請書等 |
個人番号の通知 10月→ | 個人番号カードの発行 1月→ | | 「個人番号」と顔写真、住所、生年月日等の記載された個人 番号カード (IC カード ) は申請により発行 |
雇用保険 | 1月→ | | ・雇用保険被保険者資格取得届 ・雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届・高年齢雇用継続給付資格確認書・申請書・育児休業給付受給資格確認票・申請書・介護休業給付金支給申請書 |
社会保険 | 1月→国民健康保険 | 1月→社会保険関係 | ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届・喪失届・健康保険被扶養者 ( 異動 ) 届・国民年金 3 号被保険者関係届・月額算定届 ・月額変更届・賞与支払届・育児休業関係届・健康保険 ・厚生年金保険新規適用届・傷病手当支給申請書 ・療養費支給申請書・埋葬料支給申請書 ・高額療養費支給申請書・限度額認定申請書 |
税金関係 | 申請書・届出書等→提出すべき期間 | 所得税・贈与税28年分→確定申告3月15日まで 法定調書・平成28年分→1月31日まで | ・所得税申告書・贈与税申告書・消費税申告書・相続税申告書 ・個人住民税/個人事業税 ( 平成 29 年度分から )・各法定調書・給与支払報告書 ( 源泉徴収票 )・法定調書合計表・退職所得源泉徴収票・所得税青色申告承認申請書 ・青色専従者に関する届出書・源泉所得税扶養控除 ( 異動 ) 申告書・給与支払事務所開設異動廃止届出書・酒税関係届出書 ・納税証明交付申請書 |
事業者(企業)に情報管理を押しつけ
事業者(企業)は社員が入社時に「個人番号」の提示を受けることになっています。またその「個人番号」が本人のものであるとの確認、その後の保管、行政手続き、廃棄なども事業者に任されています。この「マイナンバー」制度の最大の問題点がこの点にあります。
「個人番号」という非常に秘匿性の高い情報を公的機関だけでなく民間事業者、とくに中小企業や零細企業にその管理を押しつけていることです。同じようなものに「住民票コード」がありますが、原則として本人と関係行政機関しか知ることが出来ません。
政府の中小企業向けの「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン ( 事業者編 )」では「個人番号」の「漏えい、滅失又は毀損の防止、その他の適切な管理のため」に①基本方針の策定、②取扱規程の策定、③取扱責任者、事務担当者を区分し、それぞれ教育する、④運用チェックリストなどの記録の保存、⑤漏えい等事故に対する体制、⑥事務及び情報システムの安全管理、内部のアクセス制限、⑦外部からの不正アクセスの防止、といったことを事業者に管理責任として要求しています。
マイナンバー関係の主な罰則
個人番号利用事務等に従事する者が、正当な理由なく、特定 個人情報ファイルを提供した場合 | 4年以下の懲役又は200万円以下の罰金または併科 |
上記の者が不正な利益を図る目的で、個人番号を提供又は盗 用 | 3年以下の懲役又は150万円以下の罰金または併科 |
詐欺、暴行、脅迫、窃盗、侵入などにより個人番号を取得 | 3年以下の懲役又は150万円以下の罰金 |
偽りその他不正の手段により個人番号カードを取得 | 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
「個人番号」利用拡大をめざす政府
政府はいまの国会に「マイナンバー改正法」を提出しています。安保法制のかげになってあまり注目はされていませんが、「個人番号」の利用範囲を医療分野、預金口座、地方公共団体での活用などに広げようというものです。とくに医療分野については、診療情報などプライバシーに直接結びつくものまで対象にしようとしています。また、マイナンバー制度自身が「税と社会保障の一体改革」のもとで「徴税強化・社会保障給付の抑制」という役割を担っていることはあきらかであり、今回の改正はさらにそれを強めるものです。
5月に「年金情報」の大規模な情報漏えい事件がおこりました。被害数は100万人を上回り、「なりすまし」など今後の被害拡大が懸念されています。マイナンバーもセキュリティーの脆弱な民間企業があつかうことで、そうした情報漏えいがおこる危険性が高く、しかもマイナンバーの関係する情報は個人の住所や生年月日だけでなく、税金、社会保険、年金、医療、預金などあらゆるものにわたり、万が一の被害も甚大なものになる恐れがあります。
(2015年6月)