消費税増税
「一億総活躍社会」どころか格差・貧困拡大社会に
自民党、公明党の与党は消費税が来年4月に10%に増税される際に導入される軽減 税率と法人の実効税率を引き下げる法人税減税を軸とする「2016年度税制改正大綱」を決定しま した。一昨年の消費税増税以降、消費の低迷がつづき、国民生活、中小企業の経営にも少なくな い影響が出るなか、今度の消費税増税に対しても国民各層から反対の声が高まっています。
軽減税率は「目くらまし」
この間の自公による軽減税率をめぐる綱引きは、食 料品全般及び新聞の8%への据え置きで決着しました。 この騒動の最初は食料品等の購入時は10%でその後マ イナンバーを使って4000円分を還付するというもの で、マイナンバーの普及という「二兎を追った」この 財務省案は与党公明党も含め国民的な反対でまたたく まに消え去りました。次に自民、公明党の間で生鮮、 加工、外食など食料品の「線引」をめぐる攻防が繰り 広げられ、最後に官邸の意向で財源が不明確のまま選 挙を優先し決着しました。
新聞「赤旗」(12月5日)の試算によると食料品全般 が8%に据え置かれても10%になれば、2人以上の平 均世帯(消費税が課税される年間支出289万7000円) で4万3800円の負担増になります。また、年収200万 円未満の低所得世帯は1万5700円の負担増です。
軽減税率をめぐる一連の騒動は増税を既成事実化す るための目くらましにほかなりません。軽減税率が導 入されても低所得者ほど負担率が高くなる「逆進性」 を緩和することにはならず、むしろ6000億円以上に もなる「不足財源」探しによって、社会保障のさらな る削減が正当化される可能性があります。
インボイスで取引環境悪化
今回の税制改正で軽減税率とセットででてきたのが 「インボイス」(税額票)です。ただインボイスの本格 的な適用は増税後3~ 5年後とされ、それまでは「簡 素な方式(区分記載請求書等保存方式)」によるとし ています。簡素な方式とは来年4月以降、請求書に軽 減税率8%の対象品の合計額、税額と標準税率10%の 商品の合計額、税額を併記します。3 ~ 5年後実施さ れるインボイスは「適格請求書等保存方式」という名 称で、内容ごとに細かく税率の区分、金額、税額を記 載するほか、事業者ごとに税務署から指定された登録 番号を記載する必要があります。また、請求書の不正 発行には罰則が設けられることになります。
インボイスの問題点として売上1000万未満の免税 業者が取引から排除される恐れが指摘されています。 その理由は免税業者はインボイスを発行することがで きず、インボイスがなければ仕入にかかる消費税を納 める税金から控除できないからです。政府・与党もこ うした問題を意識し、増税後6年間は免税業者からの 仕入れでも「(仕入税額控除の80%ないし50%)相当 額」を控除できるという特例を設ける方針です。
私たちは消費税実施当時から「逆進性」の問題に加 え、取引の力関係に左右される、という消費税の性質 を指摘してきました。過去には、消費税分を値引き、 その分のコストダウン・単価引き下げを要求される、 こうした事例が数多く見受けられました。消費税が大 企業と中小、元請と下請という力の差がある企業間で、 価格引き下げ圧力としてはたらくという問題もあり、 インボイスの実施がさらなる取引の悪化に拍車をかけ る可能性があります。
法人税減税と大衆課税
今回のもうひとつの目玉は法人に対する実効税率 (国、地方の法人にかかる税金)を現行の32.11%から 2016年度29.97%、2018年度に29.74%に引き下げる ものです。当初は2017年をめどにと言っていました が、安倍首相の強い要請で1年前倒しになりました。 減税は2%強ですが1%下がると減収額は約5000億円 にものぼり、今回の減税額は1兆円にもなります。
法人の所得(課税ベース)の推移を見ると、バブル 期の1988年度の42.1兆円が2013年度には54.7 兆円と 経済成長が低迷する中で増えています。一方、法人の 実効税率は1990年代以降一貫して引き下げられ、税 収は1989年度の24.9兆円から2013年度には16.1兆円 へと逆に大幅に低下しています。
こうした背景には経済のグローバル化、タックスヘ ブンなど租税回避の高度化のなかで世界的に大企業に 対する「徴税の困難化」が進んでいること。雇用を正 社員から非正規などへシフトし、下請工賃の引き下げ などコスト削減の徹底化がすすめられ、景気が悪くて も「もうかる」体質をつくりあげたことがあります。 さらに、自民党政権のもとで大企業の負担軽減化と消 費税=大衆課税の強化が図られてきました。
消費のさらなる後退と格差拡大
この間、実質 GDP の推移は14年度全体で▲1%、 15年度もほぼゼロ成長の見込みです。景気の最大の問 題は GDP の6割をしめる消費の不振で、その主因は消 費税の引き上げです。14年度は増税の影響で物価が 2.8%上がり実質所得は減少しました。エコノミスト の多くは「消費税引き上げの影響は1年間」といって いましたが、実際は2年にわたり影響がつづいています。
いま社会問題として「格差の拡大」が注目されてい ます。その原因は労働分配率の低下にあります。労働 分配率とは企業が生み出す付加価値のうちどの程度が 労働者に還元されるかということです。これは1990 年をピークに低下の一途をたどっていますが、最近さ らにその傾向が強まっています。これは主に企業側の 利益の源泉が人件費削除などコスト削減のためで、非 正規など不安定雇用が増加する原因です。
中小企業の下請工賃も労働分配率の低下と同様な傾 向にあります。政府の統計調査では2015年夏のボー ナスは前年比で2.8%減となっています。同時期の経 団連の調査では対照的に2.81%の増になっており、マ イナスの原因は中小企業のボーナスが大きく減少した ためと考えられます。
消費税増税中止、格差の是正を
安倍首相は昨年「一億総活躍社会」というスローガ ンを打ち出しました。しかし、消費税増税と大企業を 優先する現行の政策のもとでは、消費不 振と格差の拡大という難問を解決するこ とはできず、「総活躍」どころか貧困と格 差の拡大、大企業をさらに潤すことにし かなりません。
消費不振の理由は、多数の人が将来に 不安を感じている、所得の格差が広がり 非正規など低所得者の割合が増えている、 税・社会保険料など庶民への負担が増加 している、などが考えられます。将来不 安と格差こそが日本社会、経済の活力を うばっています。その解消がいま求められる方向です。 そのためには低下している税制、社会保障制度の所得 再分配機能を強化する必要があります。大企業の「も うけすぎ」には税制、雇用などの面で社会的な役割を 果たしてもらうことで歯止めをかけるとともに、大衆 課税である消費税の増税中止が求められています。
(2015年12月)